◆睦月と事件とロッカーと
 
裕樹「藤間、隠れるぞ」
 
睦月「っ、きゃっ……!」
 
俺は藤間の手を掴む。
俺たち2人が隠れられるだけのスペースがあるもの。
その昔、かくれんぼした時、使ったことがある。
俺の席のさらに後ろ、教室の最後部に鎮座ましましている掃除用具の入ったロッカー。
 
睦月「ちょ、ちょっと……なんで、こんなところ……」
 
裕樹「静かにしてろ。他にどこか隠れられるような場所があったか?」
 
睦月「それは、確かになかったけど……何も2人で入らなくても、良かったじゃない」
 
裕樹「藤間から離れるわけには行かない」
 
睦月「え……」
 
裕樹「ヒナちゃんに、藤間も守ってやれっていわれてるからな」
 
入った後で、ちょっと後悔したのは内緒だ。
ロッカーの中は思っていたよりも狭かった。
子供の頃はもっと余裕があるものだと思っていたけど、
この学園のロッカーが思っていたより小さかったのか、
俺たちがデカかったのか。
狭すぎるロッカー。
否がおうにも藤間と体が密着する。
俺の胸に添えられた手から、藤間の感触と温度が伝わってくる。
……この隠れ場所は、やっぱり失敗だったかもしれない。
 
睦月「あまり息を吐かないでよ、くすぐったい……」
 
裕樹「無茶言うな、お前は俺に死ねというのか」
 
睦月「あなた、もしかして……
    こういうことがしたかったからロッカーに入ったんじゃないでしょうね……?」

 
裕樹「バカいえ、こんなところで何ができるっていうんだよ」
 
まったくのイレギュラーだ。
こんな美味し、いや、予想外の事態になるのは想像していなかった。
さっきは思わず言ってしまったけど、藤間って見た目よりはちゃんと
胸があるっていうか……。
 
睦月「近づいてるわね」
 
ロッカーの中の俺たちの呼吸音に入り混じり、奴の足音は聞こえてくる。
近くのクラスのロッカーを、ガタガタとイジッている音も聞こえてくる。
奴は確実に近づいてきている。
……が、そのスピードは思っているよりも遅い。
閉鎖されたこの空間だからこそ、そんな風に思えるのかもしれない。
ロッカーの中が2人分の体温で蒸してきた。
 
睦月「ロッカーの中って、結構暑いのね……ふぅ……」
 
俺も汗ばんでくる。睦月の顔を見下ろす。
 
睦月「何よ、あまりジッと見つめないでよ」
 
ギンッとガンを飛ばしてくるが、
こうやって見ると、わりとかわいいよな、藤間って。
 
裕樹「いや、ごめん……なんか巻き込んだみたいで」
 
睦月「この件に、勝手に足を突っ込んだのはわたしよ。あなたが謝る必要はないわ。
    まさか、本当に真犯人がいるとは思ってなかったけど」

 
睦月「あいつが本当の警備員っていう可能性はないのよね?」
 
裕樹「婆ちゃんも言ってただろ。今は警備員を雇ってないんだって」
 
睦月「そうね……わたしをこんな目に合わせたアイツは、絶対に許すわけには
    行かないわ……」

 
藤間の額に浮んでいる汗の雫が、なんだか色っぽいというか……。
 
睦月「はぁ……本当に、ん……ふぅ……アツい……」
 
ぞくっ。
おいおい、こんな密着した状況で何て声を出しやがる!
そんな声を出されたら、興奮しちゃうじゃないか……