裕樹「藤間、隠れるぞ」
睦月「っ、きゃっ……!」
俺は藤間の手を掴む。
俺たち2人が隠れられるだけのスペースがあるもの。
その昔、かくれんぼした時、使ったことがある。
俺の席のさらに後ろ、教室の最後部に鎮座ましましている掃除用具の入ったロッカー。
睦月「ちょ、ちょっと……なんで、こんなところ……」
裕樹「静かにしてろ。他にどこか隠れられるような場所があったか?」
睦月「それは、確かになかったけど……何も2人で入らなくても、良かったじゃない」
裕樹「藤間から離れるわけには行かない」
睦月「え……」
裕樹「ヒナちゃんに、藤間も守ってやれっていわれてるからな」
入った後で、ちょっと後悔したのは内緒だ。
ロッカーの中は思っていたよりも狭かった。
子供の頃はもっと余裕があるものだと思っていたけど、
この学園のロッカーが思っていたより小さかったのか、
俺たちがデカかったのか。
狭すぎるロッカー。
否がおうにも藤間と体が密着する。
俺の胸に添えられた手から、藤間の感触と温度が伝わってくる。
……この隠れ場所は、やっぱり失敗だったかもしれない。
睦月「あまり息を吐かないでよ、くすぐったい……」
裕樹「無茶言うな、お前は俺に死ねというのか」
睦月「あなた、もしかして……
こういうことがしたかったからロッカーに入ったんじゃないでしょうね……?」
裕樹「バカいえ、こんなところで何ができるっていうんだよ」
まったくのイレギュラーだ。
こんな美味し、いや、予想外の事態になるのは想像していなかった。
さっきは思わず言ってしまったけど、藤間って見た目よりはちゃんと
胸があるっていうか……。
睦月「近づいてるわね」
ロッカーの中の俺たちの呼吸音に入り混じり、奴の足音は聞こえてくる。
近くのクラスのロッカーを、ガタガタとイジッている音も聞こえてくる。
奴は確実に近づいてきている。
……が、そのスピードは思っているよりも遅い。
閉鎖されたこの空間だからこそ、そんな風に思えるのかもしれない。
ロッカーの中が2人分の体温で蒸してきた。
睦月「ロッカーの中って、結構暑いのね……ふぅ……」
俺も汗ばんでくる。睦月の顔を見下ろす。
睦月「何よ、あまりジッと見つめないでよ」
ギンッとガンを飛ばしてくるが、
こうやって見ると、わりとかわいいよな、藤間って。
裕樹「いや、ごめん……なんか巻き込んだみたいで」
睦月「この件に、勝手に足を突っ込んだのはわたしよ。あなたが謝る必要はないわ。
まさか、本当に真犯人がいるとは思ってなかったけど」
睦月「あいつが本当の警備員っていう可能性はないのよね?」
裕樹「婆ちゃんも言ってただろ。今は警備員を雇ってないんだって」
睦月「そうね……わたしをこんな目に合わせたアイツは、絶対に許すわけには
行かないわ……」
藤間の額に浮んでいる汗の雫が、なんだか色っぽいというか……。
睦月「はぁ……本当に、ん……ふぅ……アツい……」
ぞくっ。
おいおい、こんな密着した状況で何て声を出しやがる!
そんな声を出されたら、興奮しちゃうじゃないか……