◆唯転び七星
 
唯「ゆ、唯で、いいですっ! 友達はみんな唯って呼んでますっ!
  唯って呼んでくださいっ!」

 
裕樹「そう? それじゃ、唯ちゃん。これからもよろしくね」
 
唯「みゃっ!?」
 
俺は手を差し出した。
 
一菜「あー、兄ちゃん、兄ちゃん。唯にゃんってば、男の人に免疫がないんだよねー。
   握手なんて、もってのほかでさ」

 
裕樹「あ、そうなのか」
 
いきなり握手するってのはハードルが高いか。
手を引っ込めようとしたその瞬間。
 
唯「まままま、待ってくだひゃいっ!」
 
声を裏返して、叫んだ。
 
裕樹「は、はい?」
 
唯「あ、握手、しましょうっ!」
 
唯ちゃんはおずおずと手を伸ばしてくる。
 
一菜「おぉ、唯にゃん、積極的だねぇ?」
 
近づいたと思えば、遠ざかる。
 
裕樹「別に捕って、食いはしねぇよ……」
 
一菜「どうかなー。唯にゃんのおっぱいを、じぃっと見ちゃうような先輩だからなー?」
 
唯「みゃー!?」
 
裕樹「してない、してないよ! こら、カズちゃん、余計なこというな」
 
唯「そ、そうだよ、カズちゃんっ!」
 
おずおずと手を伸ばす。
俺の手まであと2cmというところまで来て、手が止まる。
 
唯「すーはーすーはー、ひっひっふー」
 
それは何か産まれちゃう呼吸法だ。
ふるふると、ゆっくりゆっくりと手を近づけてきて……
 
一菜「唯にゃん、なーにチンタラやってんのーっ。そーれ、ドーン!」
 
唯「みゃーっ!?」
 
唯ちゃんの背後から一菜ちゃんが押した。
 
裕樹「のぅっ!?」
 
その弾みで、彼女の手が俺の胸元に触れる……。
どころか、勢い余って、俺は彼女に押し倒されるような形に。
 
一菜「わーおぅ、唯にゃんってば、積極的ぃっ♪」
 
唯「ひにゃあぁっ! わぁ、んわわわあぁぁっ!」
 
俺に圧し掛かったまま、足をジタバタさせ錯乱している彼女は…
 
唯「はぅ、はうぅぅううぅ……きゅう」
 
オチた。
 
裕樹「俺の上で気絶するなっ! おいっ!」
 
騒ぎを聞きつけて、クラスメイトが集まってくる。
 
睦月「神谷くぅん? いったい、私の妹に、何を、してるのかしら?」
 
その中には、彼女の姉であり、俺の天敵でもある藤間(姉)の姿もあった。
 
裕樹「俺のせいじゃねーよっ! そもそも、唯ちゃんの友達……って、
 どこ行きやがったっ!?」

 
気がつくと、遠くまで逃げてやがる彼女は傍観者を決め込んでいた。
 
一菜「ごっめんねー、兄ちゃーん♪」